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    エフェメラ!

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    「撫」土田文菜『冬のなんかさ、春のなんかね』

    アルキメデスは浴槽から溢れる水を見て「ユリイカ!」と叫んだ。私たちは日々見聞きする言葉に触れては「エフェメラ!」と叫ぶともなしに記録しようと思う。言葉は儚いものであるからこそ、今このときを確実に残してくれるから。

     

     


     

    「撫」
    土田文菜『冬のなんかさ、春のなんかね』

     


     

     

    なんかさ。

    ーうん。

    疲れたよ。やってない仕事が頭の中をぐるぐる支配してる感じで、休もうにも休み切らないというか。

    ーそんなに忙しくもないでしょ。

    や、まあそうなんだけどね。でもやってない仕事っていうのはいつでもあるわけで。

    ー来週月曜日の朝にやる打ち合わせの資料とか。

    あ、それもあったな。それもまた大したものではないんだけど。ところで、『冬とか春とか』見た?

    ー『冬のなんかさ、春のなんかね』ね。1月期のドラマ。なんとなくで見てたよ。それに、書き出しからその話だろうなと思ってた。

    こちらは昨日かな、最終話を見てさ。で、アーとも話してたんだけど、あのドラマって哀れさがテーマだったんじゃないかって思ったの。

    ー哀れさ、か。浮気者の文菜が、やっぱり最後にはお別れしちゃうという意味で?

    そういうわけではなくて。だって、最初から別れるのは決まってたでしょ。「好きにならない人と付き合うことにした」というのが第一話なんだから。どこかで別れることは明らかだった。

    ーそれもそうか。

    あ、それでいうとさ。このドラマは第一話がめちゃくちゃ面白かったと思うのだけど、その肝はまさにこの言葉にあって。

    ーはあ。

    文菜の興味は幸せな恋愛にあるんだよね。でも、付き合ったらいつか別れがくる。それは幸せではない。だから、好きにならない人と付き合う、ってなことで、彼と付き合うわけよ。

    ーその時点で、いずれ別れるのは目に見えていると。

    んー。というよりも、ドラマを通して、文菜が謎の恋愛観にたどり着くんじゃないかっていう期待があったわけ。

    ー謎の恋愛観?

    すぐに誰かを好きになっちゃう、端的に浮気しちゃう自分自身を、そのまま幸せにするような恋愛観。

    ーほう。謎だね。

    そう。だからこのドラマ面白いかもと思ったわけ。超大風呂敷を広げた! って。それに、ある意味僕の話でもあるし。

    ーなるほど。

    ついでに言うとさ、この前『センチメンタル・バリュー』観たんだけど。これも序盤大風呂敷映画で。

    ー若干ディスってない?

    あのオープニングは凄かったよ。ある家族の話なんだけど、彼らが暮らす家の独白で始まるんだよね。何十年前に建てられた、その家の歴史が語られる。で、その家には結構しっかりめのヒビが入ってるのよ。

    ーヒビ?

    なんていうんだろう。家の基礎部分とまでは言えないんだろうけど、とにかく下から亀裂が入ってて、上の部屋の壁にもヒビ割れがあって。

    ー家の亀裂が、家族の亀裂のメタファーになっていると。

    その亀裂がまた美しいんだよね。よくこんな家見つけてきたなって(笑)。美しく、かつ深いこの亀裂を、その後、どう家族で描いてくれるんだろうってわくわくしてくる。

    ーそういう話なんでしょ?

    なんだけどね。家族の亀裂は割と綺麗に修復して終わるのよ。え、直っちゃったじゃん?!って。

    ー綺麗にするなと。まあ結果から言えば読み違えてたわけだ。話を戻すと、ドラマの大風呂敷も同じくこじんまり収まったよね。なんなら文菜は最後まで恋愛右翼だし。

    残念ながら。最終話だって、結局「なんでも話せるあなたと一緒にいたい」って言ってるしね。もちろん悪いことではないんだけど、そんな恋愛知っとるわ! と(笑)。良かれ悪しかれ、やっぱり見たことないものをみたいじゃない。

    ーそういう意味では、ドラマの過程は見たことないものばかりだったんじゃないの? 文菜は奔放な存在だったし。

    鏡に元カレの名前書いちゃうとか? 「無」の字に手偏書き足して「撫」にするとか? あ、まるまる一曲分ギター弾き語りを見ちゃうとか?(笑)

    ー(笑)

    まあそれは冗談として。奔放だっていうのはまあわからんくないけど、でもさ、ああいう人っているよ。そこにリアリティを感じている分、着地がぶっ飛んでいてもよかったんだと思う。それくらいの未知を見たかったなあって。

    ーお口に合いませんで。

    いやいや、そんなことないよ。なんなら最終話の、美容室のシーン。あれはよかったなあ。

    ー第一話と同じやり方で、文菜が彼に話しかけるところね。

    あれがこのドラマでやりたかったことなんじゃないかって思ったくらい。とにかく哀れなんだよね。

    ー話が戻ってきた。確かに、あのシーンは哀れさが際立ってたね。

    人間、ほんとのときって概して哀れなものなのかなって。さっきは冗談って言ったけど、鏡に元カレの名前書いたりなんなりするのだって、ほんとなんだって思うと途端に哀れだなと。

    ー盲目な恋愛の馬鹿馬鹿しさではなくて、ほんとゆえの哀れさだと。

    そうそう。バカにしてすみません!!!みたいな(笑)

    ーほんとに思ってんのか?(笑)

    そう思えるくらい、あの美容室のシーンがよかったのはほんと。

    (131)

     

     

    エフェメラ/「一日だけの、短命な」を意味するギリシャ語「ephemera」。転じて、チラシやポスターなど一時的な情報伝達のために作成される紙ものなどを指す。短命だからこそ、時代を映すとされ、収集の対象になっている。

    書き手

    迎亮太

    迎亮太

    東京都国立市/32歳

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