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    風早草子

    風早草子
    カザハヤソウシ

    走れ!次男

    レフトフェンス直撃の当たりを打って、二塁を蹴り三塁に向かう次男の疾走を、妻が新しい望遠レンズで激写。

    今日から始まる高校野球春の県大会。ブロック予選は四校総当たりで二校が勝ち抜ける。会場の小田原球場へ、妻と鹿児島から帰っている長男と応援に出かける。晴れて気温が上がり、スタンドは花粉濃度が高そうなのを除けば、とても気持ちがいい。

    3年前、長男高3の夏のドラマに感動してから、妻が球児の勇姿を撮影することに情熱を燃やし、奇跡の一枚をモノにすべく、スタジアムに行くと果敢に望遠レンズを付けた一眼レフカメラを振り回している。今はスマホのカメラも性能が高くなっているが、遠くで速い動きをするスポーツや野鳥の撮影は今も一眼レフカメラの世界だ。

    子どもの頃から野鳥少年だった私は、中学生の頃には、お年玉で買った400ミリレンズを父のペンタックスに付けて振り回していた。大学生時代、バブルに乗じたバイトで稼いだ金でついにNikonF801というカメラを買ってその後の愛機にして野鳥を追っていた。ここまではフィルムカメラ。結婚した頃、時代はすっかりデジカメに移行しており、Nikon、Canonも主力はデジタルに移る中で、私も一応NikonD50というデジタル一眼レフに移行はしていた。しかし、その後、小さい子どもが増えていた時期、鳥を見にいく暇があるわけもなく、D50はどこかに埋もれていた。

    一眼レフがあった方がいいのでは?という話が再び出始めたのは、子どもが大きくなり、野球や部活をやるようになってからだ。そしてその頃、もはやD50は完全に時代遅れなモデルになっていた。そこで当時色々調べてNikonD5600というカメラを、標準、望遠2本のズームレンズが付いたセットで買った。レンズ保護用フィルター、SDカードなど含めても10万円以下だった。ちなみにD50は約600万画素、それに対してD5600は2600万画素数だ。セットの望遠ズームは最大焦点距離が300ミリ。フォーマットがAPSなので、フィルムカメラの焦点距離に換算すると450ミリ相当になる。このくらいの望遠があれば、ある程度の野鳥、そして運動会などのスポーツは撮れる。

    D5600を買った時は、長女が少林寺拳法の全国大会に出場するタイミングだったと思う。中学では陸上部で四種競技をやっていた彼女の走り高跳び、背面ジャンプの瞬間も妻が懸命に狙っていた。以来、D5600と300ミリズームは、野球や運動会の撮影で活躍してきた。ただ3年前、長男の高校野球の夏の大会の時、妻が懸命に長男とチームメートの姿を追っていたが、やっぱり300ミリちょっと望遠が弱いね、という話になっていた。少年野球なら、それなりにグランドの近くで撮影できるが、高校野球は球場のスタンドから撮るしかないので、距離が遠く、300ミリでは選手の表情までしっかり撮るのは厳しい。

    ということで、ついに買った600ミリズームレンズ。「重い!」と戸惑いながら、妻がスタンドで懸命に振り回していた。

    次男が三塁打を打った瞬間もしっかり撮れていたし、いい感じなのではないかな?試合は、6回にこの三塁打を打った次男が相手のバッテリーエラーをついてホームインして、一旦、1対1の同点に追いついたのだけど、そのあと、相手にまた突き放されて敗れた。残念。相手の10安打に対してこちらは5安打。打線が繋がらなかった。ポイントゲッターの次男の前にランナーが2回出ていたのが、牽制アウト、ダブルプレーで、ランナーが消えてしまったのが痛かった。でもあと二試合。まだチャンスはある。

    3年前、長男も同じ小田原で春大会に出場していたのだが、私も妻も一試合も見に行っていない。この時は、一試合目の日、入院している父の面会に母を連れていく日だった。年明けに父の持病が悪化し、入所していた老健から、手に負えないので転院して欲しいと言われて、受け入れてくれる病院を必死に当時探した。コロナがぶり返し猛威を振るっていた頃で困難を極めたが、何とか介護医療病院みたいなところに入ることができたばかりだった。そんな日にあった長男の第一戦、勝てるならこの相手、というチームに乱打戦で、19対11で負けたということだった。あとの2チームはどちらも強く、特に翌日対戦するチームは勝ち目ない、みたいな話だった。「春大会は3敗かな」と口には出さないが思っていた。で、翌日は小田原に行けないこともなかったのだけど、中学生の練習試合もあるし、どうせ負けるだろうし、と見に行かなかった。ところが、その試合、長男のタイムリーで先制すると、エースの子が一世一代の好投を見せて完封し、見事大番狂せを演じてしまった。チームは次の試合でも私立を破って2勝を上げた。この試合は平日で見に行くのは無理だった。思えば、ずっと弱小で練習試合でも負けてばかりだった長男のチームが、グンと力を上げて自信を付けたのがあの春大会だったのだけど、その瞬間を見逃したのである。今思えば勿体なかった。

    子育ての醍醐味は、親の想像を超える子どもの成長の瞬間を目撃することだと思っている。長年、子どもを見ていると、稀だけど、そういう瞬間に出くわすことがあるのだ。その「えっ!!」という瞬間を見逃さないためには、とにかく子どものことをよく見ていかないといけない。だいたいは「あーあ」とか「残念」になるのだけど。子どもは小さい頃から、「トーサン、ミトイテ!」とずっと言ってる。「ミトイテ」欲しいのは「シッコするから」とか「ジャンプするから」とか、しょうもないことも多いのだけど、ずっと見てると、何かが起きる時が来るかもしれない。

    次男のチーム、初戦はいいところなく敗れ、次戦は私立。状況は厳しいけど、何が起きるかは分からない。その瞬間を見逃さないように次も見にいく。

    書き手

    海秋紗

    海秋紗

    神奈川県葉山町/57歳

    ©30YEARS ARCADE