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    風早草子

    風早草子
    カザハヤソウシ

    制約と誓約

    渋谷の地下通路にHUNTER×HUNTER の看板。ジャンプでの連載は休止しているけど、いまなんか新しいものあったかな?と思って次男に聞いたら、今年舞台があるらしい。でもこの看板はそれとは関係なさそう。リクルートエージェントが昔のアニメ画像を使ってのキャンペーン広告してる模様。

    ところで、まったく、ところで、なのだが。

    HUNTER×HUNTERは、登場人物が「念能力」というもの使って戦い、冒険する物語だ。念能力は、ある種の超能力なのだけど、自身の適性に合わせてイメージした能力を作って、磨き、鍛えていく。この念能力の設定に「制約と誓約」というルールが示されている。能力の使用にあたって何か制約を付ける、そしてそれを守れなかった場合、ペナルティーを受けるような誓約を課すことで、念能力の威力が大きく高まる、というもの。主人公ゴンの仲間のクラピカは、自身の能力を同胞の仇である幻影旅団という敵に対してしか使用しないという制約を設け、それを破ったら自分は死ぬと誓約して強力な能力を手にしている。

    この「制約と誓約」って、現実の仕事にも結構言えるような気が以前からしているので、ここで書いてみる。

    私の仕事は映像コンテンツを作ることなので、あーでもない、こーでもない、と深夜までディレクターとプロデューサーが編集室で頭を悩ます、というのが日常だった。周りもそんな人間ばっかりだ。しかし子どもがすでに3人いる状態で広島に行き、さらに双子が生まれた時点で、もはやそういう仕事の仕方はとてもできなくなった。とにかく早く帰らないと家が回らない。上の子3人に食事を食べさせ、双子に授乳している妻にそれ以上、何ができるというのか。一刻も早く家に帰り、食器や台所を片付け、洗濯機を回して洗濯物を干し、翌朝用の米を炊飯器に仕掛けて炊飯予約をしないと家の生活が成立しない。朝は子どもたちを起こして朝食を食べさせて、小学生は学校に行かせて、幼稚園児の次男は私が車で園に送る。その時に双子も車に乗せていけば、妻が一時的に赤ちゃんから解放される時間が取れる。そのためには、おむつを替えておくとか、準備が整っていないといけない。双子を一人ずつバスケット式のベビーシートに乗せてベルトをきちんと止めて、両手にベビーシートを持って次男とエレベーターを降りて駐車場まで歩く。雨が降ってたりすると傘をどう持つのが正解かも分からない。幼稚園は車で20分ほど。幼稚園から戻ると自転車で職場に猛ダッシュして、時間は午前10時。それより早くは絶対に仕事が始められないことになる。

    到着すると編集室で若いディレクターが試写の準備をして待ち構えている。昨夜見たボロボロの1編試写に対して、大筋の修正の方向性だけ指示してある。微に入り細に入り自分で修正していたら何時に帰れるか分からない。部下を信じて任せてある。放送は夕方。ドキドキの2編試写。これが「グッジョブ!」ということは滅多にない。みんな若くて経験が浅いのだ。「おっと!?」ということがほとんどなんだけど、信じて任せて早く帰っているのは私なので、そういう動揺は死んでも見せない。どんな仕上がりでも「結構頑張ったね!」しか言わない。そして「オーケー!ここから一緒に仕上げよう!」ということだ。

    若い頃、独身の頃は、1日は24時間あると思っていた。家に帰っても寝るだけなので、編集室で徹夜しても何の問題もない。結果、あーでもない、こーでもないと編集室ですぐに日付が変わっていた。私の若い頃の上司は、家庭を顧みないようなタイプが多くて、あの人何で帰らないんだろう?というくらい遅くまで編集室にいた。でも5人の子どもを抱えるプロデューサーの私に、もはやそんな悠長な仕事のやり方をしているヒマは無くなったわけだ。

    とにかく即断即決。全て片付けて家に帰らなければならない。仕事のツケは絶対家族には回さない。制約と誓約だ。

    その結果、何が起きたか?というと。

    実は私自身の仕事能力が大幅に向上した。自分で言うのもなんですが。(笑)

    双子が生まれた時、すでに43歳。仕事のスキルに十分自信は持っていたし、元々仕事は速い方、という自負もあった。でも厳しい制約と誓約の中で毎日ギリギリの仕事を回す中で、総合的に仕事の能力が大幅に上がってしまった。判断や決断の速さはもちろんだが、優先順位の付け方、二手三手先を読む力、部下だけでなく上司も含めた他人を使役するスキル、そして自分のペースで仕事をするために一番重要な、機先を制す提案で主導権を握って業務をグリップする能力などなど。

    これは完全に制約と誓約で得られたもので、帰る時間を気にせず、編集室であーでもない、こーでもない、とダラダラ仕事していたら、絶対に身につかない能力だと思う。そして57歳になった今も、私はこの時獲得したスキルで主導権を握って自分のプロジェクトを回している。

    うーん、書いたものもつまり何が言いたいかというと、子どもがいると仕事が大変だけど、それは実は自分のスキルを向上させているかもしれませんよ、ということを伝えたいのかな。かきぬまさんとか、きっとそうだと思います。多少、人生の先を行くおっさんからのメッセージかな。

    余談。

    大変だけど、毎日可愛い次男を車で幼稚園に送る間のおしゃべりタイムは楽しかった!

    「最近は幼稚園でどんな遊びしてるの?」

    「たたかいごっこだよ」

    「そうなんだ」

    「ボクけっこうつよいよ。」

    「へーそうなんだ。得意技とか必殺技とかあるの?」

    「うん、ボクのとくいワザは、ぐーぱんち❤️」

    「それはやめてぇーーーー」

    みたいな感じだった。懐かしい。

    書き手

    海秋紗

    海秋紗

    神奈川県葉山町/57歳

    ©30YEARS ARCADE