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    風早草子

    風早草子
    カザハヤソウシ

    折り鶴問題

    帰りの電車の中で秋田新幹線の顛末を書いて、家に着くと22時。今日の日記はこれで十分なんだけど、書いておかねばなるまい、折り鶴問題。

    高校野球部の謎因習に「鶴文字」というものがある。全国的なものなのかとか、詳しいことは分からないが、長男の高校にあって、次男の高校にもある。どちらもただの県立高校だ。

    チームのその年のキャッチフレーズみたいな言葉をボードにたくさんの折り鶴を貼り付けて描き、大会の時にベンチに飾る。それだけなら、益もないけど害もないのでお好きにどうぞ、なのだが、問題は折り鶴だ。

    長男の時、当たり前のように保護者LINEでキャプテンのお母さんから「選手に折り紙を渡してあるので各家庭200羽お願いします」と来た。冗談ではない。選手にプロテインを差し入れるとか、チームが強くなることにつながることなら保護者としてある程度の協力は考えるが、保護者が折り鶴折って選手の打率が上がるわけもない。私も妻も忙しい。鶴折ってるヒマがあったら、双子の勉強見たりする。そもそも部活は子どもが自分でやるものだから、どうしてもチームに必要なものなら長男本人に折らせる、というのが我が家の考え方だ。でも、四番打者の長男は、折り鶴200羽折るより素振りした方がチームのためなのは明白だ。

    ということで、我が家はそういう考えを伝えて、その年、折り鶴提出を拒否した。ちなみにその年の夏は、2年生四番長男のタイムリーもあり、チームは5年ぶりの夏1勝をつかんだ。2回戦は日大藤沢だったのでそこまでだったけど。

    そして彼が3年になる夏は、早くから他の保護者にも訴えて鶴文字を廃止した。長男2本塁打の大活躍もあり、チームは夏3回戦進出という快挙を果たした。折り鶴なんていらないのだ。もちろん折りたい人が折るのまで止めないが、折りたくない人にノルマを課すようなものではない。

    だがこの話には後があり、翌年の夏、時間があったので後輩たちの夏一回戦を妻と球場に見に行ったら、ベンチに鶴文字が復活していた。なぜ?誰が?正直ガックリした。試合は十分勝てる相手だったが、良いところなく負けて一回戦敗退。「折り鶴なんて折ってるから負けるんだ!」と心の中で毒付かずにはいられなかった。

    次男の高校は、去年折り鶴の話が保護者に来なかったので油断していた。

    実は去年保護者の懇親会があった時、居酒屋の父親テーブルで、長男の時の折り鶴の話をした。保護者会長のお父さんもいたが、みなさん「そうですよね」と賛意を示されていたと思う。

    ところが。

    次男の高校では毎年保護者ではなく、女子マネージャーたちが鶴を折っていたらしい。それが今の代はマネージャーが一人になったため、彼女から選手のお母さんに「一人では大変なので手伝ってもらえませんか?」と来たということ。

    我が家は、子どもの部活関係の窓口は私になっているので、試合の時に氷が必要、みたいな連絡が来るグループLINEには私が登録している。我が家以外全部母親。お母さんLINEに一人だけ父が混じっている。そもそも氷がどうこう、という連絡だって、高校生なんだから、親じゃなくて選手本人でいいだろう?と我が家は思うのだけど、お母さんLINEのやりとりを見ていると、皆さん、献身的な息子愛に溢れている感じで感覚が違う。アウェイ感がいっぱい。きっとユニフォームの泥もお母さんが洗ってやってるんだろうなー、という感じ。そういう育て方してると、将来、あなたの息子がそういう男になりますよ、と思うけど、まあそれぞれの家の考え方があるのでそれは言わない。ただ折り鶴は・・・

    LINEは、息子思いのお母さんたちからの返信で埋まっていく。「よろこんで!」、「頑張ります」、という前向きコメントが続き各家庭125羽で、という結論に至る。いやそもそも折り鶴不要では?という意見を発信するタイミングは完全に逸した。顧問の先生に言うか?と思いつつ、その連絡先も知らず、仕事も忙しく手が打てなかった。そしてもう提出期限間近。

    私も妻も、無意味な折り鶴作業をするモチベーションはゼロなのだが、今からうちだけ出さないときっと全体の作業スケジュールに影響するだろう。こうした中、すべての事情を知る娘が「こうなったら私が全部折ってあげる!」と、めんどくさい状況の解消に男気を出してくれた。

    話は戻るが、秋田行きの交通手段問題を片付けて家に帰った時、まさに長女がこれから125羽の折り鶴を折り始めるタイミングだった。提出期限は近く、もう今夜で全部折るというスタンス。さすがに次男も姉に全部任せるわけにいかず、手伝う。次男はこれまで折り紙にあまり親しんだことがなく、鶴の折り方を姉から一から教わっている。初めて折り鶴を自分で作って少し感動していた。(笑)

    それはともかく、125羽というゴールはなかなか遠い。秋田行きの切符問題でヘトヘトになって22時に帰ってきたトーさんは、風呂入って酒飲んで夕食食べながら、鶴を折る長女と次男を見ていた。しかしゴールが遠い状況を見て、やむなく途中から参戦した。

    私は小さい頃、実は折り紙大好きキッズだったので、折り紙は好きだし得意。でも無意味な鶴文字に協力はしたくない。と言いつつ、この状況では全力で鶴を折るしかない。結局3人で何とかノルマの125羽を片付けたのは25時前。男気を示してくれた娘からも「この鶴には呪いしかこもってないなあー」というネガティブな言葉しか出てこない。が、その代わり、「お前、絶対試合で打って勝て!」という圧迫が行われていた。それは私も同感。やれやれ。

    書き手

    海秋紗

    海秋紗

    神奈川県葉山町/57歳

    ©30YEARS ARCADE