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    風早草子

    風早草子
    カザハヤソウシ

    勝った!!!

    勝った!そしてそれをこの目で見届けた。今日はそれに尽きる。

    昨日の日記で子どもが稀に見せる予想を超える成長の瞬間、みたいなことを書いたものの、まあ今日はまず勝ち目はなかろう、という覚悟で出かけた。

    相手の私立高校は、横浜とか相模ほどの超強豪ではないものの、去年は夏大会も秋大会も神奈川のベスト16まで進んでいる。夏一回戦負け、秋ブロック予選敗退の次男の高校とはレベチだ。昨日は午後の試合で、選手と保護者が集合して準備をしているのを見たけど、選手は50人くらいいるし、揃いのポロシャツを着込んだ保護者の本気度も比べものにならない。そして午後の試合は県立高校を14対0のコールドで一蹴している。

    でも次男本人は案外強気で、朝駅まで車で送った時、「今日負けたら終わりなんだから、勝つしかない」と言っていた。昨日の敗戦がかなり悔しかったようだが、あまり気持ちを表さない次男にしては、やる気ありだ。次男は天才タイプなので、相手がどんなピッチャーだろうが打ってやる!と思っているのだろう。ただ野球はチームスポーツだから、一人が頑張ってもね、という話である。

    今日は妻は仕事で遅れて来るので、電車で球場へ。国府津で乗り換えて下曽我という駅が最寄り。御殿場線なるものに初めて乗った。御殿場線はJR東海の路線らしく、逗子駅でタッチしたPASMOを駅員に処理してもらわないと改札を出られない。改札に行列ができていた。JR、もう少し頑張った方がいいのではないだろうか?とりあえず下曽我駅、とてものどかな駅だった。子どもの野球の試合などあると、自分の意志ではまず足を運ばないところに行く機会が生まれて、それはそれでいつも面白い。パンを買った駅前のデイリー山崎でレジのおばあさんに球場への道を聞いたら「線路を超えて富士山の方向に歩けば着きます」と教えられた。そう、葉山より大きく白い富士山がよく見えている。

    さて球場。相手チームの青い揃いのポロシャツを着た保護者の数と気合に、開始前からすでにこちらは押されている。(笑)こちらもチームカラーの応援用メガホンとか、チームTシャツはあるのだけど。上着のいらない暖かさだったので、私も今日はチームTシャツを着てやる気のある保護者姿だ。

    球場でやる高校野球の公式戦は、開始前に両チームにシートノックというグランドで練習する時間が7分与えられる。まずは相手の私立から。選手がポジションに着き、監督が次々とノックを打っていく。背番号を付けているベンチ入り選手は全員出て来る。強豪校のシートノックは、手慣れた感が強くて美しい。キビキビと選手が入れ替わり、ノックのボールがどんどん戻されて、ノッカーの監督に戻されて効率よく進んでいく。選手たちは皆体が大きくて肩が強い。そしてベンチ入り枠一杯の背番号25まで選手がいる。(なぜか夏の大会は20人しかベンチに入れないのに春は25だそう)その25番の選手ですら、こちらのチームに入れば一番みたいな体格だ。そして同じくらいの人数がユニフォームを着てスタンドに座っている。

    野球というのは、小学生の時は地元の軟式チームでやっている子が多いが、その中で体が大きくて上手な、もっと上のレベルで野球を続けていきたい子は、中学校の野球部ではなく、硬式ボールを使うシニアのクラブチームに進む子が多い。そしてそういう子たちは、だいたい野球に力を入れている私立に進むようだ。野球が盛んな神奈川県にはそういうクラブチームも、その出身選手を受け入れる私立高校もたくさんある。二大ラスボスの横浜高校と東海大相模だけでなく、全国制覇した慶應もあるし、そのほかにも部員を多く抱えて野球に力を入れている私立が、それこそ無数にある。夏の予選の出場校が全国一多いことはよく知られているが、その中にもガチの高校がたくさんあり、もう大変なレッドオーシャンなのである。そういう中で、普通の県立高校野球部は、夏に一勝するだけでも大変だし、私学の壁は常に厚い。

    シートノックは変わって次男のチーム。こちらは背番号15までしか選手はおらず、部員全員ベンチ入りだ。昨日のシートノックは初戦の緊張からか結構ミスが多かったが、今日は落ち着いている。相手チームの選手は全員ベンチ前に並んで、こちらのシートノックを真剣な眼差しで凝視している。肩の強さとか、野手の巧さ下手さなど、シートノックで分かる相手チームの情報は多い。そういう風に普段から教育されているのだろうけど、ベンチ前に並ぶ選手の表情に、油断も慢心も見られない。

    さて、プレーボール。惨殺覚悟で観戦開始だ。先行のこちらは初回、1、2、3番アウトであっさり三者凡退。相手は背番号1のエースがマウンドに立っており、連勝で予選突破する気満々のようだ。

    我がチーム、私が見るところ、打撃に大きな期待ができる選手は3人しかいない。1番を打つショートの子はパンチ力があり、足も速い。2番を打つエースのキャプテンは長打も多い。そしてうちの次男。速球でも変化球でも打てて三振が非常に少なく、チャンスにめっぽう強い。そのため、新チームになってからずっと四番を打っていたのだが、1、2番で作ったチャンスが3番で切れて次男に回らないケースがこれまで結構あった。そういうこともあってなのかは知らないが、この大会は次男は3番。チームの得点はこの1、2、3にかかっているというのが私の見立て。もちろん4番以降の選手もバットを持って打席に立つので、ヒットを打つ可能性はある。でも相手のエースが気合を入れて投げて来る公式戦では、下位打線の連打というのはまず期待できない。でも期待の1、2、3番であっさり三者凡退なので、やっぱり厳しい。

    こちらは相手の一回の攻撃は0点で凌ぐも、2回にあっさり先制を許して早くも0対1。やっぱり厳しそう。

    ところが。

    3回、相手エースの制球がやや乱れて下位打線に二つのフォアボール。いやよく見極めたバッターを褒めるべきかも。とにかくランナー1、2塁で期待の1、2、3番につながる願ってもない展開。そしてここで1番の選手が会心のセンターへのヒット!

    トコロガ。

    さすが強豪私立、センターからの好送球でランナーがホームで刺されてしまう。これでランナーは1、2塁に残ったけどツーアウト。やっぱり私学の壁は厚いか・・・と保護者席は意気消沈。

    でも今日の選手たちは、このあと、私の想像を大きく超えていった。

    昨日はノーヒットだった2番キャプテンが左中間を深々と破る会心の二塁打で今度は文句なく二人の走者を返して試合をひっくり返した。

    そして次男。彼はこういう流れで期待に応えるやつだ。見事三遊間の破って二塁ランナーを呼び込んだ。エースが投げている強豪私立相手に小細工も小技もなく、連続タイムリーで試合をひっくり返すようなことはなかなかない。

    こちらの猛攻で相手のリズムが崩れたのか、タイムリーでこちらのエースの気合いが乗ったのか、わからないが、以降相手打線を0点に押さえる。そして逆に味方は、四球や内野安打で下位打線が粘ってつなぎ、キャプテンと次男のワンツータイムリー、というのが何度も決まり、8対1とリード。7回裏を一点以内押さえれば、コールド勝ち、というところまで相手を追い詰めた。

    しかしここからが苦しかった。こちらのエースは昨日も130球くらい投げての連投。さすがに疲れもあるし、相手打線も球に目が慣れて来る。結局、7回裏に2点返されてコールドならず。しかし、8回表に相手の三番手投手を攻めて3点を奪い、また8回裏を押さえればコールド勝ちのチャンス。しかしさすがに球威も落ち、制球も甘くなり、一つのアウトが取れず連打を浴びる。相手応援席は奇跡を信じての大声援で圧がすごい。ついにマウンドに1年生リリーフを送るも、ワイルドピッチ、連続四球で2点を失い、再びエースがマウンドへ。連投とか球数制限とか言われる高校野球だが、弱小県立高校が私学を倒すには、結局明日なき戦いを挑むしかないのである。

    結局8回裏に7点を返されて、スコアは12対10。コールド勝ちのチャンスから、一転、逆転サヨナラ負けの可能性も現実的な状況になってしまった。そもそも地力は向こうが上だし、流れもヤバい。こちらの応援席もみな真っ青だ。

    でも最終回。キャプテンエースが最後の力投。9回裏の攻撃を三者凡退で打ち取って逃げ切った!部員15人の県立で県ベスト16の私立を倒したのは、結構なジャイアントキリングだろう。2番キャプテンが5安打5打点、3番次男が3安打3打点。見事な連続パンチで堂々と私立に打ち勝った。電車で小田原まで見に行った甲斐があったというものだ。

    いやでも、7回コールドで決まれば良かったのだけど、相手の7、8回の猛反撃に肝を冷やしたので、試合終了後は、ドッと疲れた。

    車で来た妻は仕事の買い出しがあり、そもそも道も混みそうなので、帰りも御殿場線。電車の待ち時間が長かったので、のどかな駅前で色々買い物。勝利の高揚で何か買いたい気分だったのだけど。逗子に着いたらオーケーで夕食の買い物して自転車で大急ぎで帰宅。家に帰ると次男がもうすぐ駅に着くとLINE。バイクで迎えにいく。慌ただしく風呂に入り夕食を作り、曽我で買った酒で祝杯。

    疲れたけど良いものが見られた、良い一日だった。日記の長さを超えていると思うけど、長文で記録しておく。

     

    書き手

    海秋紗

    海秋紗

    神奈川県葉山町/57歳

    ©30YEARS ARCADE