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    風早草子

    風早草子
    カザハヤソウシ

    それぞれの山王戦

    かきぬまさんに、さながら山王戦、とまで書いていただいたのは、ちょっと過大なような気がしますが。(笑)高校野球の山王たちは現在、甲子園に集合しております。まあでも、それぞれの山王戦がありますよね。

    吹奏楽とか、無縁の世界だけど、よくテレビで吹奏楽部取り上げられているのを見ると、ある意味、運動部以上にブラック?(笑)っぽくて、山王戦、いかにもありそうに見えます。

    スラムダンクはジャンプ連載を読んでいた世代かな。管理職として広島に勤務してる時、時々一人で息抜きに昼食に行ってたラーメン屋に単行本が揃っていて、その頃、また読み返した記憶がある。長男の高校が例の踏切のところなので、意外と縁もあったり。うちの次男は湘北にはいないタイプかな。ちょっと親バカ(笑)だけど、仙道に近い。マイページな天才型で他人に興味が薄い。沢北の名前、絶対忘れると思う。いかにも北沢?って言いそう。

    長女の山王戦、就活もケリがついたということ。エントリーした企業から全て内定をもらい、その中から、自分が行きたいところを決め、他社にはもう辞退の連絡を入れたということ。すごいな、我が娘。まだ大学生活は1年残っているけど、いよいよ育てた子どもが巣立っていく。これだって、私と妻の長い長い山王戦だ。

    そんなことを思うと、もう少し育てた自分たちも讃えていいんじゃないかと思って、獺祭を買ってきて飲む。

    ちょっと振り返ると、ほんの一年前、次男の野球部生活はまだ暗黒だった。前顧問の「丸刈り強制」に象徴される独善的チーム運営に次男のモチベーションは最低ラインまで落ちて野球部を辞めそうだった。結局、パワハラであり、コンプラ違反も多々あることから、私が介入して、校長と前顧問から直接謝罪を受けたのが、一年前、3月中旬だった。前顧問の問題は、丸刈りに象徴されるが、野球の技術と関係ない不可解な精神論を重視し、それに従順な選手を重用することだった。だから選手が監督にアピールする、阿るためにバカみたいな大声を出すとか、変な方にチームが向かう。うちの次男が最も嫌いで苦手なことだ。まあ、そういう雰囲気を見て、入学当初、野球部に入らなかったのだろう。

    5人きょうだいの中で、最も運動センスに恵まれている次男だけど、天才ゆえかもしれないが、自分の才能に無頓着だ。やりたいこと、なりたい自分がはっきりしている長女、長男に比べて、本人のモチベーションが定まらない。抜き身の才能が転がっているような感じだ。本人は、野球は得意だし好きだが、意味の薄い長すぎる練習とか、理不尽な精神論とかは大嫌いで苦手だ。野球は好きだけど、あまりに嫌なことを我慢してまでしなくてもいい、と思っていたのだと思う。

    親としては、貴重な高校3年間、浪費してもらいたくはない。せっかく野球の才能に恵まれているならば、それをフルに発揮して、仲間から頼られたり、期待されたりして、またそれに応えるプレッシャーや責任感と向き合ったり、そしてそれを乗り越える達成感を味わって欲しいと思っていた。

    1年前、丸刈り問題は解決したものの、3年生引退までは、前顧問が監督としてチームの指揮を取る流れだった。前顧問への「アピール」みたいなことは全くしない次男は、ほとんど試合でも起用されなかった。全く記憶から消えていたが、そう、丸刈り問題も片付いたため、私は去年の春大会、一試合だけ会場の藤沢の私立高校まで足を運んで観戦していた。相手は会場となっている私立高校だったが、ひどい試合で、あっという間にコールド負けしていた。とにかく打力が弱い。次男を出せば、少しは打つだろうに、と思いながら見ていたが、出番はなかった。去年の春大会、チームは2試合コールド負けしてもちろん予選で敗退した。前顧問が指揮を取った一回戦敗退の夏大会も次男はずっとベンチだった。彼が出ていたら、もう少し打線はなんとかなるだろうに、と思いながら、私はスタンドで試合を見ていた。

    それから1年。ようやく次男が、本来の才能を発揮してグランドで躍動している。彼が打席に立つと、チームメートも保護者席も「彼なら打ってくれる!」と期待が高まるのがわかる。そして打つ。そしてチームは、強豪私立を倒し、山王戦を制し、これまでの壁だったブロック予選を突破した。1年前の暗黒時代を思うと、そういう舞台で彼が躍動しているだけで親としては嬉しい。

    私にとっては、彼が活躍できる環境を整えることが山王戦だったのだろう。まあ色々考えるとやっぱり獺祭くらい飲んでもいいでしょ?というのが結論。(笑)

    さて次の山王戦はなんだ?あ、私には「さんいんせん」という強敵が待っている・・・

    書き手

    海秋紗

    海秋紗

    神奈川県葉山町/57歳

    ©30YEARS ARCADE