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    風早草子

    風早草子
    カザハヤソウシ

    一つの夏の終わり

    久しぶりに渋谷の坂を下り駅に向かう。

    業務は今日からいわゆるポスプロというステージ。70本以上の番組をいかに効率的に編集し、完成させていくか?がテーマだ。絶対に間違いをしてはならないが、以前の「アナログ的」な確認工程を改めて、私が間違いがおき得ない仕組みを構築したので、ある意味、機械的作業だ。ただ一本一本の時間が長くて数が膨大なので、限られた設備をいかに効率的に人を回しながらやっていくかが鍵になる。その制作工程の指揮は担当デスクたちに任せている。そして作業にあたるのは10人のルーキーズ。フレッシュだ。私たちベテランデスク陣は完成したものの最終チェックを、進行管理デスクの差配のもと、指示された編集室に行って行うだけ。

    なので今日はシフトを夕方以降にしてもらって、私は朝から2週間ぶりに自宅へ。今日は双子の中学野球部の夏大会初戦だ。2週間の間にずいぶん季節が進み、庭のオニユリがもう咲きそうだ。

    鹿児島から長男も帰ってきて妻と娘と総出で応援だ。相手は横須賀の中学。人数も多くて体格のいい子も結構いて強そう。中学から野球を始めた子がほとんどですごい体格の選手もいないこちらは劣勢が予想されるけど、去年の新チーム立ち上げから考えれば、ずいぶん上手くなっているので、健闘を祈るばかりだ。

    試合は先制されてワンサイドゲームになるかと思ったけど、2回以降、打線が相手エースの速球を捉えて、痛烈なヒットを何本も放ち、得点を返し、4回表で3対5。そして4回裏の相手の攻撃を初めて0点に押さえて5回表の攻撃。先頭が内野安打で出て続く選手が2塁打。無死2、3塁で2番打者。クリーンアップにつながるいい流れ。でも続くサードゴロで三塁ランナーが飛び出してしまう痛恨の走塁ミス。ランダンプレーで3塁走者に加えて2塁走者もアウトになってしまった。残念。経験の浅い選手が多いチームは、ランナーの判断ミスが出がちで、これが今回の勝負を分けたかな。このほかにもヒットで出た2塁ランナーと3塁ランナーの牽制死が一回ずつあったし、タイムリー三塁打を打ったバッターがさらにホームを狙ってクロスプレーでアウトというのもあった。まあ相手の守備がうまかった、とも言える。でもこちらの選手も相手のエースに何本も外野の頭を超えるようなヒットを浴びせていて、十分戦えていた。内野のエラーも一つもなかった。去年のことを思えば、格段の成長だ。双子2号君は残念ながらのノーヒットだったけど、1号君は内野安打と痛烈な三塁打で出塁し、2回ともホームに帰ってきた。初戦敗退という結果ではあるけど、みんな十分頑張ったと思う。

    終わった後のミーティングで先生が話していた。先生はこのチームを誇りに思うと言ってくれていた。それは最近中学校の部活を途中でやめる子が多いそうなのだが、野球部はこれまでそういう子が一人もいないということ。そういえば、双子の学年は当初、入部したのは双子以外に一人だけだった。それを双子が誘って二学期からもう一人入部した。野球未経験どころか、キャッチボールすらしたことがない子だった。そしてさらに2年生の始めにまた双子が誘ってもう一人。こちらは野球未経験の女の子だった。彼女は試合中に痛烈なデッドボールが当たって泣いてしまっていたこともあったけど、最後まで部活を続けて今日の試合もスタメンのセカンドでグランドに立っていた。そういうチームで最後に堂々と戦えたことは大したものだ。このチームを引っ張ってきたのはうちの双子君たちだと思う。二人の兄に比べれば、体格やセンスは及ばないけど、優しくて明るい二人の力があってこのチームはみんな頑張って来れたのだと思う。結果は初戦敗退だけど褒めてやりたい。

    ただ今日は双子と話す時間がないまま渋谷へトンボ帰り。ルーキーズの編集室を5部屋回って試写のヘビーローテーション。進行管理デスク、容赦ない。(笑)そして地方からはまだ来るヘルプコール。

    我が家の夏の一つ、双子の野球はまず終わったが、まだまだ夏は終わらない。

     

    書き手

    海秋紗

    海秋紗

    神奈川県葉山町/57歳

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