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    ピーエス

    記憶の周縁

    連休中、長い付き合いの友人から、実家で荷物を整理していたら色々見つけたよ、と写真と共にメッセージが送られてきた。最初に送られてきたのは独立して5年くらい経った頃の名刺だったが、あまりにもダサくて恥ずかしいのでここには載せない。

    この友人との付き合いの長さや写真のシチュエーション、自分の髭から推察するにおそらく20年くらい前の写真と思われる。さすがに、自分で見ても若い。大学院を出てすぐに開業届を出し、長い迷走の只中にいる頃だ。これまでの人生で(いまのところ)最初で最後のヌードモデルをやったのもこの頃だな。(卑猥なものではなくて、とある写真家さんの作品のためのモデル。つまり芸術のためのヌード)

    お互い、この長い年月にいろんなことがあったし、状況も環境も時代も変わった。それこそこの写真なんてポジフィルムだけど、もうポジフィルムにお目にかかることなんて滅多にない。学生時代は恩師の講義の準備を手伝う中でよくこのマウントされたポジフィルムをスライドのためにドラムにセットしたものだ。もうフィルムカメラすら触ってない。そんな風に長い年月を超えて、それほど頻繁に会うわけでは無いとはいえ、付き合いが続くというのはなんと貴重なことか、と改めて思う。

    そういった長い付き合いで「あの頃あのカフェでお茶してた」とかいう記憶の本流みたいなところは共有できていてもおそらく脳内の映像としてはボヤッとしていて解像度は高くない。それはそれで良い側面でもある。けれどこうして時代を超えて掘り出された写真を見ると、その記憶の周縁の解像度がグッと上がり、いろんな記憶の扉が開いたりもする。不思議なことにそもそも親密に思っているその友人に対する親密ささえも増す気がする。

    私も大学に入った頃から12~3年前までフィルムでたくさんの写真を撮ったが、12年前に色々あって、それまでの人生すら綺麗にリセットされたりしないかという願望のもと、すべて廃棄してしまった。私の記憶の周縁を蘇らせてくれるものは永遠に失われてしまったが、愛用していたフィルムカメラは元教え子で元バイトのY君が使っていて、時々それで撮影した写真を見せてくれる。それを私は密かに楽しみにしている。

    書き手

    田畠隆志

    田畠隆志

    神奈川県横浜市/47歳

    ©30YEARS ARCADE