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    島縞

    島縞
    シマシマ

    皆既月食があるそうですが、娘の成長を思ったら切なくなったので寝ます。

    登り始めた月が、とても大きくて。ナイスタイミングだったものだから、娘を呼んで一緒に見た。
    そして、月のサイズに負けないくらい大きな声で「おおお!」と叫んだ。

     

    実は一年前の今日、私たちは新幹線を乗り継ぎ、神奈川に向けて出発した。娘との初めての長旅。
    AmazonPhotosに一年前の写真として出てきて思い出した。たった一年前のことなのに、娘の面影には幼さが残る。成長の早さに驚きと、喜びと、そしてほんの少しの寂しさ。

    こうやって、普段は目に見えない変化が重なって、大人になっていくんだね。(順調に行けば)ひとり立ちしていくんだね。そう思ったら、チクッとね。
    そう、まだまだ子離れの準備なんてできていない。

    そして、身体的な成長だけじゃなくて、心の方も思春期に向けてどんどん変化しているよう。

    成人まであと半分。長いようだけど、どんどん離れていくことを考えたらあっという間に感じてしまうのだろう。
    冷凍みかんにはしゃいで、新幹線の座席に小さく丸くなって寝ていたのに。
    思い返せば、この一年もあっという間だった。

     

    不思議なもので、相反する感情というものはいつでも心をひきちぎるみたいに痛めつける。
    今日も一日、そんな揺れにやられていた。あっちを見ては喜び、こっちを見ては嘆きの繰り返し。正直疲れる。こういうことは辞めたいと常々思っている。
    にも関わらず、どうしても辞められないのだ。嫌なら、わかっているのなら、しなけりゃいい。それだけのことなのに。

     

    今日も娘とトランプでひと遊び。久しぶりに神経衰弱も。

    そうして、娘はゲームでマタタビを集めるのに忙しいとかで、私は読書に興じる。今読んでいるのは、大好きな作家さんである髙田郁さんの『星の教室』。第一章から泣いてしまった。最近泣いてばかりだ。夜間中学のお話で、帯には「明日を、あきらめない。人生を、手放さない。」と力強い言葉が書かれている。この話の主人公は、中学の頃の執拗ないじめで不登校となり、不信感だらけの同級生、先生、学校自体への嫌悪・反発から、卒業証書を受け取らなかった。だからこそ、夜間中学という道が生まれた。もし、卒業証書を受け取っていたなら、形式だけの中卒の肩書きが残り、学び直しは今のシステムではできないらしい。もちろん、今は色んな学びの形があるから、そこだけに固執する必要はないのかもしれないけれど。この学校に通う人たちの、それぞれの抱える事情は想像できないものがある。門をくぐる決心をするのに、三年もの月日がかかったと話す人物が、今ここで逃げてはだめだ、自分のように無駄に歳月を使わせたくない、と主人公を留める。うう、思い出すだけで泣いてしまう。私は、こんな風に人のために自分の意見をぶつけることができるだろうか。

    まだ二章までしか読んでいないのに、熱くなってしまった。

    こんな風に熱くなってしまうのは、もしかしたら、と思うのだ。
    もしかしたら、娘もそんな選択肢が必要となる日が来るかもしれない、と。

    久しぶりのラジオ体操で疲れ校庭に転がった際、目に飛び込んできた星空に感動した主人公。『見上げてごらん夜の星を』を歌う担任教師と懐かしむクラスメートたちのシーンにもジーン。この夏、娘と見た天の川も、実家の障子を開けてみた満天の星空も、忘れたくない。

    追記:これを書いてから、あとがきを読んでいると、今日では形式卒業者にも夜間中学の道は開かれているとのこと。
    やるせなさがそのまま残らない社会に、安堵と感謝がにじむ。

    書き手

    ひらのあすみ

    ひらのあすみ

    長崎県五島市/43歳

    ©30YEARS ARCADE