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    島縞

    島縞
    シマシマ

    広がる世界

    旅したり、車を再取得したり、とにもかくにも目まぐるしい。

    自分の生活で頭がいっぱいで、インプットができずにいる。

    そんな目まぐるしい中で、もうこれ以上はないだろうと思っていたら、きた。
    娘が、ずっと一緒におうちにいた娘が、外の世界へと飛び出した。

     

    その日は急に来た。
    なんてことはなくて、それまでに色んなことが数珠つなぎであって、やっとここまで来ることができた。

    それはいいこともわるいことも。おこったことだけではない。
    ひととの関わりもそう。
    つながっていないようで、それぞれが見えない糸でひっぱられるようにして、次々と必要なもの・こと・ひとがやってきて、今、ここにいる。

     

    娘は今日、不安な気持ちを抱えながらも、フリースクールのドアをノックした。
    そうして自分の足で歩みだしたからこその出会いがあった。
    最初は私の口を使って自己紹介していた娘だったけれど、次第に自分の口で返事をし始める。
    聞かれたことに、自分の口を使って思いや考えを伝え始める。

    これまで、そういうことは苦手でできないんだと思っていた。
    けれど、そうではなかったのかもしれない。
    確かに、恥ずかしいとか、いやとか、色んな感情は抱えてはいたのだろうけれど。

    ようやく、ずっと求めていたお友だちをもつことができて、興奮が、喜びが、目からからだから、ほとばしっていた。

     

    お昼がきて、娘のために企画してくださったイラスト講座はあっという間に終わってしまう。
    この時、まだ緊張気味だった娘は帰りたそうにしていた。
    けれど、お友だちに「もう帰るの?一緒にご飯食べよう。」と声をかけられ、「うん。」と小さく返事をした。
    スーパーへお弁当を買いに行く間、「何時に帰る?」と心もとない様子だ。
    誘ってもらって嬉しい反面、どうしていいか分からず戸惑いもあったのだろう。

    それでも、お弁当を食べたあとお友だちが近くに来てくれて一緒にイラストを描き始めると、すぐに私の横から離れていった。

     

    しばらくふたりの世界だったところに、祖父母や叔母、甥っ子を除く登場人物がいっぺんに増えた。

    彼女の居場所がひとつ増えて、社会の広がりをみせた一日。

    諦めていたわけではない。けれど、必死に作ろうとしてもできなかったものは、本人が望んだとき、ちゃんとやってきてくれるのかもしれない。
    これから、もっともっと広がってくよ。
    折りたたんでたその羽で、思いっきり飛びまわれ。

     

     

    書き手

    ひらのあすみ

    ひらのあすみ

    長崎県五島市/44歳

    ©30YEARS ARCADE