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    風早草子

    風早草子
    カザハヤソウシ

    大井埠頭の思い出

    昨夜の送別会後、タクシーで大森実家マンションに行き、今日はそのままそこで在宅勤務。母がグループホームに入り、無人のマンションの部屋。Wi-Fiは残してあり、家よりリモートワーク環境はいいかも。ただ、日中はモーターボートの音がうるさい。(笑)十階の部屋からは平和島競艇場の水面が一望できる。子どもの頃からボートレースは家から見えていたが、これの面白さは結局理解できていない。何周か回るのだけど、勝負は最初のコーナーで決まり、後半での逆転とかデッドヒートって全くない競技だと思うけど。競艇場の玄関口、平和島駅が我が大森海岸駅の南、そして北の隣の駅は大井競馬場の玄関口、立会川駅。ギャンブル地帯で治安はかなり微妙な地域だ。(笑)

    Screenshot

    仕事前、そんな地元を久しぶりにランニング。この界隈は基本的に昭和の埋立地ばかりだ。競艇場を横目に平和島を抜けると、この時期水が真っ茶色の運河を渡って大井埠頭というこの辺りでもっとも大きな埋立島に至る。

    この大きな島、神田の青果市場の移転先、とされていたが、昭和期、反対の声が強くて、用途が決まらないまま、長年、放置された。その間に雨水が溜まって大きな池がいくつもできて、周囲にはヨシが生い茂り、そこにたくさんの野鳥が飛来して、東京らしからぬ、ワイルドな原野が誕生し、バードウォッチャーから注目を浴びるスポットとなった。すでに野鳥の会に入っていた小5の私が大森に越して来たのはそんな時期だ。自転車で10分の場所にあるワイルドなフィールドが私のホームになり、たまたま同じマンション、同じクラスにいたもう一人の鳥好きの友人と競い合うように通い詰めて鳥を探しまくるようになっていく。

    そして、東京に思いがけず蘇ったこの湿原を保護していくべきだ、という市民運動が大きなうねりとなり、ここに東京都が湿原のごく一部だが、野鳥公園というものを1978年に設立した。まさに私が大森に越した小5の年にあたる。動物園や水族館と違って、飼育展示などはなくて、勝手に飛来する野鳥を人間がのぞき窓から観察するというそれまでの日本にはなかったタイプの施設で、管理も役人ではなく、NGOにすぎない日本野鳥の会に委託され、野鳥の会から派遣されたレンジャーが常駐し管理を行った。そして設立運動に携わった数多くの市民、つまり野鳥愛好家がボランティアとして、環境整備作業、調査、来園者への鳥の説明に参加した。私もその一人で、草刈りや土木作業、調査などに大人と一緒に汗を流していた。「大井ボランティアグループ」という名称もあったが、まだ日本でボランティアという言葉自体が定着する前の時代で、ボランティアの先駆け的存在でもあったと思う。

    時代が時代なので、今日的コンプラからはかなりかけ離れていた部分もあったけど、それがまた私たちには楽しかった。埋め立てたものの放置されて原野化していた大井埠頭は、バス路線どころかまだ道路もあまりなくて、アクセスが非常に悪かった。そのため、日曜日のボランティア作業のために前日から泊り込み、ということが日常的に行われていた。まだ週休2日ではない時代なので、遠方の人は土曜日の仕事を終えて夜にやってくる。と言っても公園の事務所は一坪くらいの広さしかなく、皆屋根の下のベンチとかで寝袋でごろ寝だ。そして当然の如く、夕食は酒盛り。公園にガスなどはないため、七輪で炭火だ。曲がりなりにも、れきとした東京都の施設なので、そんな勝手をしていたら今なら大問題になると思うけど、当時は無法地帯だったのだ。ボランティアは多彩で、芸大の日本画の教授、競馬場の獣医、哲学者、そしてもちろんプロの野鳥写真家、そして多くの大学生などなど、いろいろな人がいた。うるさいうちの母も、野鳥関係については寛容だったため、私たちも中学生の頃からこの泊り込みに参加していた。中学生にもその場で酒を飲ませる当時の大人の倫理観はまあさておき、野鳥の話、自然保護の話など、多彩な大人が口角泡飛ばして議論しているのは面白かった。さながら鳥関係者の梁山泊みたいなところだったのだと思う。私たち子どもはここで、いろいろな大人にずいぶん叱られた気もするが、たくさんのことを教えてもらった。

    この梁山泊を経て、私は大学時代もオオタカの保護活動とか里山問題に足を突っ込み、そういう問題意識を問いたくて、ジャーナリズムの世界へと進んだ。一方、小5以来の私の朋友は、ストレートに鳥の研究者への道へ進んだ。そして気が付けば、エライ教授先生となり、本日、やつが総監修を務めた新たな鳥図鑑が発売。ということで帰りに横浜駅の有隣堂に寄って購入。彼も小5で転校して来た私と出会ってなければ、ここまで鳥にのめり込んで学者にまではなってないと思う。

    この図鑑、子ども向けではあるけど、最新のゲノム解析に基づく鳥の進化の系統樹で編集されているので、とても良い。大人にもおすすめ。そう最新系統図で図鑑を作れば、ジャノメドリ目とか、ノガンモドキ目、というのが欲しくなるのだけど、ちゃんと入っていて熱い。

    鳥の進化って結構意外で、今日、私たちは身近にもっとも目にするのがスズメやヒヨドリ、シジュウカラみたいなスズメ目の小鳥ばかりなので、あれを当たり前、鳥の原型、プロトタイプみたいに思っているけど、実はスズメ目はもっとも新しくて、爆発的に反映したグループで、鳥の原型は結構意外な感じなのだ。ノガンモドキはそのミッシングリンクみたいなものかな。ご興味あればぜひ買ってください。

    書き手

    海秋紗

    海秋紗

    神奈川県葉山町/58歳

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